字幕作品として初オスカーを受賞した韓国映画『パラサイト』が1月8日の金曜ロードショーに地上波初登場しますね! コロナ渦直前でヒットしたこの映画の鍵を握るのがニオイですが、確かに鼻が効くことは、危険を察知する警報機になります。また嗅覚は食事を楽しんだり、人となりや社会的なつながりを築いたりするためにも大切な力です。ところが新型コロナウイルスの後遺症で、その力を奪われてしまった人が少なくないのだとか。そこで研究分野でも最注目されている嗅覚の世界についてわかっていることをまとめました。
目次
うさん臭さ、危険を察知するニオイの力(嗅覚)。
「臭うなぁ……」。はっきりした証拠はないけどなんかうさん臭い、いやな予感がする。鼻が効くことは、賞味期限切れの牛乳や、ガス漏れはないかと危険を察知したり、フェロモンを嗅ぎ分けて最適なパートナーを見抜いたりと、目に見えない、私たちの大きなサポーターです。
韓国映画『パラサイト』でも、ハラハラドキドキの大どんでん返しの鍵を握るのが“ニオイ”。貧乏一家がお金持ち一家に巧みに寄生するストーリーでは、貧富の世界を区別するのがニオイなのです。どんなに見た目や振る舞いを取り繕っても、靴下が万年部屋干しされるカビ臭い半地下の家で暮らす貧乏一家には、ぬぐいきれないニオイという特有のアイデンティティが漂うというのです。
記憶に直結するニオイは、アイデンティティを表す。
『パラサイト』に負けず劣らず、映画化されたこの小説の凄まじいストーリーもニオイがカギとなりアイデンティティ(自己同一性、「これが自分なのだ」という確信)と直結しています。
主人公は、18世紀のパリ、悪臭を放つ魚市場で望まれずに生まれ、数キロ先のニオイも嗅ぎ分けられるずば抜けた嗅覚を持つ男。そんな彼にはまったく体臭が無く、そのために誰の記憶にも残りません。この小説でも、ニオイが無いことで、その人の人となり、アイデンティティを失うことが示唆されています。のちに調香師となった男は、心を奪われてしまったニオイの記憶を封じ込めようと我を忘れ、殺人に手を染めるのです。ニオイ=その人(我)を形作るものというのがストーリー全体に漂っています。
うさん臭さをニオイで表すのは英語圏もそうです。“smell(ニオイ)”という英単語を使い、きなくさいことをsmells fishy (直訳:魚クサイ)と言います。フランスは英語圏ではありませんが、上の主人公が誕生したのが魚市場というのも、どこか暗喩的です。
ニオイがアイデンティティ(自己同一性、個性)を表すというのは、見たり聞いたりしたものよりもニオイの方が記憶を呼び覚ます効果が高いとされるからでしょう。
「記憶や感情は嗅覚と複雑に結びついており、嗅覚系は感情の幸福に重要な役割を果たしているが、ほとんど認識されていない」というのが、ハーバード大学医学部 神経生物学准教授のサンディープ・ロバート・ダッタ博士です(1)。ニオイの影響力は絶大で奥深いのにも関わらず、医療分野では、ほとんど注目されてきませんでした。
コロナ禍で注目され始めたニオイの研究。
ところが、その傾向をひっくり返したのが、新型コロナウイルスであるというのが、ニューヨーク市マンハッタン区にあるマウント・サイナイ医科大学のドロレス・マラスピナ博士。新型コロナ患者に嗅覚を突然失ってしまった人が少なくなく、ニオイの研究が最注目されているのだとか(1)。
例えば、嗅覚は単なる香りを認識するセンサーにとどまらず、味覚と食欲の両方に密接に結びついています。それが奪われることで、食べる喜びも奪われてしまいます。実際に、美食家だった私の祖父が晩年に病気で嗅覚を失ったとき、食べることへの興味を失い、大変食が細くなって、当時の私と体重が同じぐらいになってしまったことがあります。
このように嗅覚が突然奪われることは、気分や生活の質に大きな影響を与える可能性があります。確かに嗅覚障害は不安や抑うつの危険因子で、健康な人でも社会的引きこもりになることがあると発見されています。ニオイを感じられないことで、社会的孤立や、快楽を感じられず、奇妙な離脱感や孤立感と関係するのです(1)。私たちは頭で考える以上に、感覚的な生き物なのです。
ニオえる力(嗅覚)の仕組みとは?
では失われた体の機能、嗅覚を取り戻したり、その力を高めることはできるのでしょうか?
私たちの体の中で、ニオイを嗅ぎ分けるのは、1000以上ある嗅覚受容体です。空気中に漂うニオイ分子が私たちの鼻の一番奥、脳に近いところにある嗅覚受容体に受けられ、その情報が脳に処理されることで「良い香り」「クサイ」とニオイを感じることができます。この嗅覚受容体のうち、実際に機能しているのは400程度。個人差があって、機能する嗅覚受容体が多いほどたくさんのニオイを感知することができます(2)。
そして人間が嗅ぎ分けられるニオイはだいたい3000種類。ワインのテイスティング中に「若いリンゴの香りの後に、微かなバニラが…」なんて言われて、「え?そう??」と思ったりしますが、確かにソムリエや調香師など特別な訓練を受けた人は1万種類もの香りを識別できるそうです(3)。
映画『パラサイト』では、最初に貧乏家族特有のニオイに気づいたのが、芸術的センスがありADHD気味のお金持ち家の息子。互いに他人のフリをして、お金持ち一家に潜り込んだ貧乏一家の父、母、息子、娘を「同じニオイがする!」と見破るのです。
映画製作者もおそらく知っていたのでしょうが、ADHDの子どもたちのほうがニオイを検知できるというのは研究でも知られています。ADHDは脳内のドーパミンという神経伝達物質が低下することが原因のひとつとされますが、MPH(塩酸メチルフェ二デート)という薬物を内服することで、ドーパミン濃度を上昇させるという治療があります。この治療を受けたADHDの子どもたちからは、ニオイの感度が低下してしまうことから、ニオイの感度にはドーパミンが関係しているのではとも考えられています(4)。
嗅覚UPに必要な食べ物、エクササイズはコレ。
ニューヨークのマウント・サイナイ医科大学に併設されるマウント・サイナイ病院耳鼻咽喉科医アルフレッド・イロレタ博士によると、魚油に含まれるオメガ3脂肪酸は、神経細胞を損傷から保護したり、神経の再生を助けたりする可能性があり、嗅覚の回復に役立てるのではとしています(1)。オメガ3脂肪酸であるEPAとDHAは、サケ、マグロ、マスなど脂の多い魚や、カニ、ムール貝、牡蠣などの貝類に含まれています。
また神経細胞の修復にはB12(ビタミン12)も使われるとあり、余談ですが昨年末より顔面麻痺になって耳鼻咽喉科に通院している私もメチコバールというB12の薬が処方されています。B12は上の牡蠣をはじめ、動物性食品からのみ摂取でき、20年以上ヴィーガンよりのベジタリアンだった私は、慢性的なB12不足になっていました。そこで体の声を聞きながら、少しずつ魚を中心とした動物性食品を適度に取るように食生活を変えました。
では、ニオイ力を高めるエクササイズはあるのでしょうか。例えば、嗅覚機能を回復させるリハビリでは、パーキンソン病患者などに対して、繰り返し4種類程度のニオイを何度も嗅がせます。1日2回、12〜18週間にわたって行いますが、この訓練は9歳から15歳の健康体の子どもたちにも効果があったそうです(5)。単に3.5分間、特定の香りを嗅がせることで、その識別力が上がったという研究もあります(6)。
つまり神経細胞に必要な栄養を摂ったり、何度も特定の香りを意識的に嗅ぎ続けたりすることで、ニオイの感度を高めることができるのです。
心、体、魂の全体からなるホリスティックな私たち。
このように私たちはホリスティック、つまり心、体、魂の全体からなります。
参考記事:体・心・魂が求めるものに満たされた、幸せでホリスティックな生き方とは?
私自身顔面麻痺を患ったことから、今までいかに体の声よりも頭の声(心)を優先していたのかに気づかされました。「心と魂が良いと言っているんだから、体はそれにしたがって当然でしょ」というように。
参考記事:風の時代へ。冬至の心の毒だし、バシャールの現実創造で何が起こる? 突然顔面マヒに、ラムゼイハント症で緊急入院した話。
これからはそうではなく、体をもっと大切にし、全体で生きることに決めました。”こうしよう”と信じて決めるときには、心と魂だけでなく、もっと体の意見も聞こう、そう思いました。
今はまだ左の顔半分が動かないし、無理をすると左耳の後ろの神経痛が出ます。つまり頭が焦って回復を急ごうとコントロールしても、体が「ストップ」のわかりやすいサインを出してくれるようになりました。
実は麻痺が出る前から、頭が痛かったり、耳に激痛が走ったりとサインを出してくれていたのに、ずっと「もっと頑張って!」と体の声を無視し続けていました。顔が動かなくなって、ようやく「なんとかしよう」と思えたのです。私の場合は、恥ずかしい話ですが、おそらく見た目に執着があって、ホリスティックに生きると強く決意するためには、顔面麻痺という形をとることが最適だと魂が判断したのでしょう。
だからもしも決断に迷うときは、一度思考を止めて、鼻を効かせてみてはいかがでしょう。それは聞こえないぐらいのささやきかもしれないけれど、体のメッセージを聞くことで、エゴを超えた記憶や智恵とつながり、無意識の領域内の一番重要な解決法をダウンロードできるはずです。
参照1.https://www.nytimes.com/2021/01/02/health/coronavirus-smell-taste.html
参照2. Majid, Asifa., Speed, Laura., Croijimans, Llja., and Arshamian, Artin .(2017). What Makes a Better Smeller? Perception 2017, Vol.46 (3-40 406-430. DOI: 10.1177/0301006616688224
参照3. https://www.youtube.com/watch?v=3KKguTpkPog
参照4. Romanos, M., Renner, T. J., Schecklmann, M., Hummel, B., Roos, M., von Mering, C., . . . Gerlach, M. (2008). Improved odor sensitivity in attention-deficit/hyperactivity disorder. Biological Psychiatry, 64, 938–940.
参照5. Mori, E., Petters, W., Valder, C., & Hummel, T. (2015). Exposure to odours improves olfactory function in healthy children. Rhinology, 53, 221–226.
参照6. Li, W., Luxenberg, E., & Parrish, T. (2006). Learning to smell the roses: Experience-dependent neural plasticity in human piriform and orbitofrontal cortices. Neuron, 52, 1097–1108.