怒り、不安は15分書けば癒せる。効果的なジャーナリングのポイントは7つ

ジャーナリングは、心に浮かんだことをそのまま書いて、自分の理解を深めること。誰にも打ち明けられない怒りや不安、モヤモヤした思いは、ジャーナリングで整理できます。書く瞑想とも言われるジャーナリングは、アメリカでは心理療法にも使われています。

代表的な手法は、2つ。医療現場でも広く使われるジェームス・ペンベイカー博士のエクスプレッシブ・ジャーナリングと、人気クリエイティブ・ライティング講座を指導する作家のナタリー・ゴールドバーグさんのジャーナリングです。

その効果的な7つのポイントについて、お話しします。

つらいアメリカ生活を救ってくれたジャーナリング

私は、14年間勤めた会社を辞めて、5年間アメリカで暮らしていたことがあります。心理学やスピリチュアリティの本場のアメリカで、学びたかったためです。

けれども英語はほとんどできず、心理学の基礎知識もゼロ。そこでドクター・スースの絵本を読みながら、語学学校で勉強していました。

その1ヶ月前には、出版社で編集者をしていたので、気分はトホホでした。

右も左もわからない状態で、知り合いもいませんでした。ホストマザーには洗濯機を使わせもらえない、バスを待てば強盗に合うと、なんだかんだの真っ暗闇のなかで、私が向かったのは日記帳でした。

自分の主張を自由に吐き出せる唯一の方法が、日記だったんです。

アメリカ時代の日記帳たち。このせつじつ感。

不満や怒り、悲しみを書き殴っていくうちに、書くことの9割は聞く作業だと気がつきました。

自分の主張に根気よく耳を傾ける感じなんですね。しかも誰も読めないであろう日本語で書くことで、心理的な安全が確保されています。

そこで、自分の言葉にならない思いを文字で言語化していくことに、カウンセリング効果があると実感したんです。

意図せず、ジャーナリングになっていたんですね。

作家の村上春樹さんも、臨床心理学者 河合隼雄さんに、小説を書き始めたのは自己治療のためだったとお話しされていますよね。

とはいえ、村上さんのような素晴らしい作品を書く必要はありません。

書くことは自分の内側との対話。そして、日記は完全にプライベートな空間です。

100%自分の言い分を批判されることなく吐き出せ、心理的に安全な場所です。

アメリカ時代の暮らし:ありのままの自分で本当に幸せになれるの? マガジンハウスからホームレス編集者へ。アメリカ先住民ナバホ族の集落で死にかけて学べた私の幸福学。

セラピーにも使われるジャーナリング

改めてジャーナリングとは何かというと、日記は英語でジャーナル。

ジャーナリングは、英語で日記を書くことです。

ここでは、心に浮かんだことをそのまま紙に書いて、自分の理解を深めることです。

ノートに心に浮かんだことを書いて、書いて、書きまくるジャーナリングは、書く瞑想とも言われます。アメリカでは心理療法にも使われています。

なかでも、日記だけにペン、というわけではありませんが、ジェームス・ペンベーカー博士の手法 エクスプレッシブ・ジャーナリング(表現するジャーナリング)は医療分野においても最も広く利用され、研究もされています。

やり方はシンプル。

ストレスを感じたり、しんどい体験について15〜20分間、ノートに書き綴るだけ。

人に読ませるものではないので、誤字脱字があっても、前後の文脈がハチャメチャでも気にしなくてOK。

むしろ気にせず、勢いに任せる方がベター。

「こんなこと思うなんて、私って人間的に小さい」と後ろめたく感じる必要もなく、ただ筆を進めます。

参考:辛い現実から抜け出せない人へ。バシャール流の自己肯定感の高め方

毎日15-20分ノートに思いを書くだけ

というのも、私たちは悲しかったり、辛い出来事があると、それが強烈であればあるほど無意識のうちに記憶の奥に押しやっているんですね。

それで無くなればいいのですが、腸壁に溜まった食べかすのように、その思いは心の奥でくすぶります。

心も体と同じで、良い栄養が吸収されづらくなったり、消化不良を起こしてしまったりするんですね。

そこで、ジャーナリングで鬱屈した思いを発散し、体験したことの意味を再認識することで、辛い経験から回復する助けになりそうです。

たとえば、パートナーとの別れ(1)、愛する人の死(2)、無職状態(3)、自然災害(4)、一般的なストレスを感じる出来事(5)にも効果があるとされています。

また各20分、連続する計4日間、辛い出来事や感情について書くと、長期的には免疫機能が向上するなど、心だけでなく体もヘルシーになるとか(6)。

でも辛いことを書くことで、もう一度嫌な気分になりそうと思うとなんだか尻込みしますよね? そこでストレスなく行うために7つポイントがあります。

エクスプレッシブ・ジャーナリング7つのポイント

1. 各15-20分、4日間で1セッション。手書きで。

1セッションを数週間続けて行うのがより効果的です。

2. トピック選びは自由

同じトピックについて書き続けてもいいし、毎日テーマを変えてもOKです。

今日しんどかったこと、悲しかったこと。辛かったことなどについて自由に想いを綴りましょう。

3. 書く手を止めない。誤字脱字OK

「無い、無い、無い、無い、無い….」など書く内容が無くなったら、新しい言葉が自然に出るまで同じ言葉を繰り返して書いてもOK。内容よりも、タイムアップまで書き続けることが肝心です。

4. 自分のためだけに書く

4日間のエクササイズ終了後は、書いたものを捨ててもいいし、誰にも読まれないように隠してもいい。とにかく人目につかないという安心感を自分に与えることが大切。

5. 辛くて書けない内容は、書かなくて良い

心の準備がついていないということなので、心理的に向き合える出来事や状況にトピックを変えて。

6. 悲しみや落ち込みを感じても、不安にならない

開始して1、2日は、悲しみが数分または数時間続く可能性が。どんな感情が起こっても自分をサポートできるような時間をあらかじめ設定しておくと安心です。

7. 改善が見られないときは、プロに相談

ストレス改善が見られない場合は中断し、カウンセラーに相談して。

全米で大人気のクリエイティブ・ライティング講座。

ペンベーカー博士の手法は、主にトラウマやストレス治療を目的としたものですが、創造性を回復するための文章講座というのもあって人気です。その代表がアメリカのベストセラー作家ナタリー・ゴールドバーグが行うクリエイティブ・ライティング(創作文)講座です。

禅仏教の熱心な実践者でもあるナタリーが書いた文章指南本『Writing Down the Bones: Feeling the Writer Within』書けるひとになる! 魂の文章術)はミリオンセラーとなり、日本語も含め12もの言語で翻訳・出版されています。この本は、すっごく面白くて、翻訳本も新装あたらに再出版されたので、ぜひ読んでいただきたい!

単なるハウトゥー本を超えて、まず読み物として面白いです。そして、”書く”ということは、生き様を表すものだと、1冊読めば実感します。短いショートストーリー形式だから、自分が気になるテーマに合わせて少しずつ味わって読むのもいい。テクニカルなこと以上に、その人の命の源である魂とつながることが、エネルギーある文章になり、書き手と読み手の癒しにつながるんだと、この本を読んで実体験できます。

本では、アメリカ人のナタリーが文章を書くことにも人生にも行き詰まって、日本人の片桐大忍老師に教えをこうシーンがあります。

それに対する老師の答えが

良いも悪いも無い。ただやるだけだ(No good, no bad. Just do it)

この禅的教えは、彼女の魂の文章術の随所に現れています。Just do itという言葉は、Nikeのスローガンでもありますよね。

ナタリーのジャーナリングには以下の7つのポイントがあります。そのうちのいくつかはペンペーカー博士のエクスプレッシブ・ジャーナリングと共通していますが、ユニークなものもあります(7)。

創造性と繋がるジャーナリングのやり方

1.手の動きを止めない
何が言いたいのかわからないなら、「何が言いたいのかわからない」。無駄な時間を過ごしていると思うなら、「こんなことは馬鹿げている」と次の言葉が出るまで、思いの丈を書き続ける。手の動きが追いつくように、スラスラと滑りの良いペンを選ぶと安心。

2.コントロールを失う

3.考えない。

4.誤字脱字、文法の誤りはムシ

5.ガラクタを書いていい

社会的、文化的なエチケットに従う必要はない。「いい人に見せたい」「うまく書きたい」と執着せず、ノートの上では本来の自分を解放して。ナタリーが言う“しょっぱなの考え(first thoughts)”を敬い、加工・編集しようとしないこと。頭の中の編集者や検閲責任者に暇を出し、自己肯定という名の特大サイズのプールで自由に泳いで。

6.具体的に

全ての感覚をフル稼働させて表現する。例えば「彼女のせいで気が狂いそう!」ではなく、「メイって一緒にいてもずっとインスタ見てるし、映画中は話しかけてくるし、安い香水工場みたいな匂いがするのよね」といったように。ただし五感を研ぎ澄ませて書けなくても、それで自己批判したり、心配しないこと。

7.際どいところを攻めよ

「怖いという気持ちが浮き上がってきたら、突き進め! それこそが創造性のエネルギーの源よ」というナタリー。始めは核心から逃げようとリスク周辺でうろうろしたり、はっきりしない主張からスタートするかもしれない。「でも逃げないで! 今まで心理的にスレスレのところを突いて書くことで死んだ人はいない。泣いたり、笑ったりしても、死ぬことはないから」というのがナタリーのガイダンス。

ナタリーによれば創造性を回復させるためにはまず、本来の自分を取り戻し、ありのままの自己を深く知って、それを受け入れる作業が必要だと言います。これは自己認識力とも言われ、感情のコントロールがしやすくなることからビジネスの世界では、創造性のみならず、マネージメント力を培うためのスキルとしても重要視されています。

繰り返します。

良いも悪いも無い。ただやるだけだ(No good, no bad. Just do it)

正しいも間違っているも無い。ただ書くだけです。

一体ナタリーがこの鉄則をどう具体的に文章にして伝えているのか、そしてそれを踏まえてどんな文を書いているのかは、ぜひ本を手にとって味わってみてください。あなたのジャーナリングライフがずっと楽しく、深みのあるものになるはずです。

どこかのライターが「書いていると血行が良くなって、脱糞したくなる」と語っていました(私じゃないですよ)。

たしかにジャーナリングとは心と体のお掃除。モヤモヤも感じ切って、噛み砕いて、ポーンッと流してしまいましょう。

ジャーナリングも、トイレやお風呂、歯磨きと同じだと考えれば、毎日の生活の習慣にしやすいと思います。

参考:自然なあなたが一番美しい。ドス黒い感情やダメな視点にも価値がある! 不安、怒りを「書いて」陽転させる方法。

瞑想もオススメ

1. Lepore SJ, Greenberg MA. Mending broken hearts: effects of expressive writing on mood, cognitive processing, social adjustment and health following a relationship breakup. Psychol Health. 2002;17(5):547-560.
2. Kovac SH, Range LM. Writing projects: lessening undergraduates’ unique suicidal bereavement. Suicide Life Threat Behav. 2000;30(1):50-60.
3. Spera SP, Buhrfeind ED, Pennebaker JW. Expressive writing and coping with job loss. Acad Manage J. 1994;37(3):722-733.
4. Smyth J, Hockemeyer J, Anderson C, et al. Structured writing about a natural disaster buffers the effect of intrusive thoughts on negative affect and physical symptoms. Aust J of Disast Trauma. 2002;1:2002-2001.
5. Schoutrop MJ, Lange A, Hanewald G, Davidovich U, Salomon H, tte e. Structured writing and processing major stressful events: A controlled trial. Psychother Psychosom. 2002;71(3):151-157.
6. Pennebaker JW. Writing about emotional experiences as a therapeutic process. Psychol Sci. 1997;8(3):162-166.

7.書けるひとになる! 魂の文章術 Natalie Goldberg. Writing Down the Bones: Freeing the Writer Within (Shambhala).