アドラー心理学とは? 人間関係から自由になって、今この瞬間に幸せになるポイント2つ

アドラー心理学を読み解いたロングセラー本『嫌われる勇気』。嫌われる勇気を持って、他人から評価されたい、愛されたいという欲求から自由になる。無条件に今の自分を受け容れて、他者に貢献すれば、今この瞬間から幸せになれると語ります。次作『幸せになる勇気では、愛の育み方について語ります。本書を参考に、人間関係から自由になって幸せになれる2つのポイントをお届けします。

幸せのヒントがつまったアドラー心理学とは?

アドラー心理学はオーストリア出身の精神科医アルフレッド・アドラーが創始し、個人心理学(individual psychology)とも呼ばれます。アドラーはかつて、精神分析学の創始者ジークムント・フロイトと共同研究していました。しかし、袂を分かちます。最大の理由は、トラウマなど過去の経験が苦しみの原因とするフロイト説と、アドラーの考えが違うためです。アドラーは、苦しみとは、現在の、過去の経験の解釈によるものだと考えます。

幸せは、今ここでどんな解釈をするかで決まる。

そしてアドラーは、すべての苦悩は、対人関係の悩みであるとします。

確かにこの世界に自分ひとりでは、孤独という概念はありえません。そもそも一人きりなので、寂しいという感覚も生まれません。嫉妬も裏切りも生まれません。

一方で、喜びもまた対人関係から生まれます。人と交友することで、愛や信頼、分かち合いや貢献を体験できるからです。

不幸の原因は、過去や相手のせいじゃない。
ではなぜ傷つくの?

そこで幸せか不幸かを決めるものは、なにか。
フロイトは、過去の過ちや心の傷による無意識の言動が幸せを阻むとしました。アドラーは、原因は過去には無く、現状を今どう解釈するかが幸せか不幸かを定めると言います。

例えば、「元パートナーが浮気したので、男性不信である」というのは、アドラーに言わせれば、「人生の嘘」になります。そして、過去の出来事や他人の振る舞いは、今の自分に影響こそしても、今の自分の行動を決定することはないと断言します。

幸せになる勇気ではそれを、人を水辺まで連れていくことができても、水を呑ませることはできない、という言葉で表しています。

これは、「すべてを奪われても、いかに振る舞うかという人間としての最後の自由は残されている」と説いた心理学者で『夜と霧』の著者ヴィクトール・フランクルを中心に、実存主義的な心理療法でも広く受け入れられる考えです。

例えば、先ほどの「元パートナーが浮気したので、男性不信である」では、「男性を信用しない」という決断には目的があります。過去の出来事が原因ではなく、その目的こそが行動の動機なのです。

それは例えば、裏切られて傷つくことから自分を守りたいという目的かもしれません。または、誰かを愛し抜くという、自分の決断に自信が持てない、または責任を持ちたくないのかもしれません。愛されない限り、愛さなくてもいい。自分は変わらなくてもいいという目的を果たしているのです。

現状が苦しいけれど、実は深層心理では対人関係に踏み出さない方がラクで都合がいいと判断。そこで、今ここの自分が「元パートナーが浮気したので、男性不信である」という解釈を選択しているのです。私たちには、どういうものの見方をするかという自由が与えられているから。

逆に言えば、今この瞬間からその解釈を手放して、幸せを選ぶこともできます。

参考:人間関係がうまくいかない4つのパターン、コントロールドラマを知って望まない関係を克服!

参考:嫌いな自分を赦せば、愛が叶う。投影を外し、人間関係のモヤモヤを一掃する心理学。




今この瞬間で、深層心理から
幸せになる捉え方 2つのポイント。

では今この瞬間で、深層心理から幸せになる捉え方はなんでしょう。『幸せになる勇気より、大きく2つのポイントを紹介します。

1. 変えられるものと変えられないものを見分ける。

以下のニーバーの祈りをご存知でしょうか。

神よ、
変えられないものを受け入れる平穏さを与えてください。
変えられるものを変える勇気を与えてください。
そして、そのふたつを見分ける知恵を与えてください。

というものです。アドラー心理学では、他人を変えることはできない。機嫌をとったり、屈服させようとしたりする承認欲求を持って、一喜一憂することは無意味だとします。それどころかそれこそが苦しみの原因だと。相手がどう判断し、振る舞うかというのは、その人の課題であって、自分のテーマではないためです。

相手も自分も、その人自身が変わりたいと思わない限り、変えられない。言い換えれば、いつでも自分がどういう物の見方を選択するかは選べるということです。

さらに言えば、今この瞬間に自分がどういう物の見方や行動を選択するかで、現実は幸せにも不幸にもなれるということ。

この変えられないことと変えられることをクリアにすることが、今この瞬間で幸せになる第一歩です。

2. 相手の立場で捉え、その人を信頼すると私が決断する。

コントロールできない相手の反応を得ようとして苦しむよりも、まず自分を変えて、先にそれを与えよとするのがアドラーです。つまり、尊敬も信頼も愛も人から与えられることではなく、まず自分が相手にそれを与えると決意することだといいます。

例えば、人に尊敬されると、大事にされたようで嬉しいものです。では相手を尊敬するというのは一体どういうことでしょう。社会学者エーリッヒ・フロムは、「尊敬とは、人間の姿をありのままに見て、その人が唯一無二の存在であることを知る能力のことである」。そしてまた、「その人が、その人らしく成長発展していけるよう、気づかうことである」(『幸せになる勇気』より)という深い洞察をもって、尊敬について定義しています。

それは、サンフランシスコに有名な禅センターを設立した鈴木俊隆老師の教えにも通じています。彼は、元々在米日本人向けのお寺を任されて渡米。ところが結果として、カリフォルニアのヒッピーや文化人たちを魅了し、アメリカ人が本格的な禅修行を行う3つのセンターを建てました。そのひとつ、タサハラ禅マウンテンセンターでは、アップル創業者のスティーブ・ジョブズも修行しました。
参考:電気は太陽光、川の水で洗濯し、温泉は先住民の聖水。スティーブ・ジョブズも修行したアメリカの元祖禅道場「タサハラ禅マウンテンセンター」で暮らしてみた

全く違う文化、言語、境遇の人たちの心を動かした鈴木老師。彼の『禅マインド ビギナーズ・マインドは、ZENを愛する欧米人のバイブル的存在です。そこで彼は、人間関係におけるこんな逆説的真理を語っています。

「人をコントロールするいちばんよい方法は、存分にふざけてもいいんだよと言ってやることだ。そう言われた人は、広い意味でコントロールされた状態になる。羊や牛をコントロールするには広々とした牧場に放してやればいいが、それと同じことだ」(『書けるひとになる! 魂の文章術 』より)。

英語では、その人の立場(身)になって考えることを、put yourself in one’s shoes (直訳すると、自分自身をその人の靴に突っ込むの意味)といいます。

このように自分の全身を、相手の靴のような全身の重みがかかって一番窮屈そうなところに突っ込む。そんな風にその人の目と耳と心で感じるように世界を捉えてみることが、真の共感であり、アドラーが晩年特に重視した「共同体感覚」と言われるものです。

「共同体感覚」とは、集団や組織に対する所属感であり、そこにいる人たちと交友し、貢献したい、一緒に協力して生きていきたいという欲求のことです。




自分が変わることで、相手も変化するという不思議。
人に愛されなくても、自分との愛ある関係が育める。

このように自分の捉え方に変革を起こし、ありのままの相手を尊重し信頼すること。愛されるよりも愛すると決めて、自分が変わること。すると鈴木老師のように人を変えようとしていないのに、自ずと相手も自分を尊敬してくれたり、大切にしてくれたり、愛してくれるから不思議です。

でもそうならなくても、愛されなくてもいいんです。他者を愛することで、自己中心性から解放されるからです。それは自分という一番大切な人間関係から自由になって、自分との愛ある関係を育み、今この瞬間から幸せになるということ。

参考:悩みの中に答えがある。仏教とスピリチュアル世界からみる、自由になる2ステップ。

このようにアドラー心理学では、深層心理で人間関係から自由になって、今この瞬間から幸せになるための深いヒントを教えてくれます。



参考:ドス黒い感情やダメな視点にも価値がある! 不安、怒りを「書いて」陽転させる方法