好感度アップには、シャープな意見や良いことを言わないとなぁとプレッシャーを感じていませんか。でも一番大切なのは、相手にとって心地よい存在になることです。あらゆるコミュニケーションに役立つ、私たちの印象を良くするためのもっとも簡単な方法についてお話しします。
私がアメリカで暮らしていたとき、ティク・ナット・ハン禅師のマインドフルネス サンガに入っていたんです。
サンガというのは、サンスクリット語なんですが、仏教徒が教えを生きるためのコミュニティ、仲間のことです。
仏教徒かどうかや宗教なんかは別として、ダイエットをするとか勉強をするとかスポーツや瞑想をするとか、一人だと意志が弱くなって「うーん、今日は寒いしやめちゃおう」となってしまったときに、一緒になる仲間がいると支えになりますよね。そんな感じでマインドフルネスの実践でも、たとえばリトリート(合宿)に参加したりして集中的に修行した後も、近くのサンガに加わったり、自分でサンガをつくることがすすめられていたんです。
マインドフルネスは、漢字では「念」と表されますが、「今」と「心」がひとつになった状態を指します。
息を吸いながら、息を吸っていることを意識したり、息を吐きながら、息を吐いていることを意識するというのも、マインドフルネス。
歩くときに一歩一歩を意識したり、ご飯を食べるときには一口ごとをしっかりと味わったりするのも、マインドフルネス。
というふうに毎日の生活のいろんな行動を結びつけておこなうことで、「今」という瞬間に心を置いて、自分をよく観察しながら、いつも自分自身と向き合うことができます。
私は、2012年の5月に韓国のお寺で行われた、ティク・ナット・ハン禅師がおこなう合宿(リトリート)に参加して以来、毎日の生活に自分サイズでマインドフルネスを取り入れています。
そんなこんなで初めてのマインドフルネス合宿から1年半が過ぎた2014年の11月より、会社を辞めて5年弱アメリカで生活することになりました。
英語もよくわからず、たったひとりで頼る人もいなかったのですが、留学するのは、高校生のときからの夢。今までコツコツ貯めてきた貯金をつかって渡米したのです。最初は語学学校に通って、心理学を勉強しました。
けれども、ホームステイ先を追い出されるわ、強盗に有り金を奪われるわ、なんだか色々うまくいきません。
威勢よく会社を辞めたものの、お先真っ暗、という感じでした。
参考:ありのままの自分で本当に幸せになれるの? マガジンハウスからホームレス編集者へ。アメリカ先住民ナバホ族の集落で死にかけて学べた私の幸福学。
ちっともマインドフルな状態ではあれず、一緒にプラクティスする仲間が必要だと思うようになりました。そこで英語の勉強にもなるだろうとプラム・ヴィレッジ(フランスにあるティク・ナット・ハン禅師の僧院)のホームページを調べて、バークレー周辺のサンガを3、4ヶ所問い合わせ、参加させてもらったんです。
カリフォルニアのサンガでは、まず一緒に座る瞑想をやって、その後に歩く瞑想を行います。歩く瞑想では、家のなかとか、庭とか、近所の道なんかを、一歩一歩足を踏み締める感覚を味わいながら、歩きます。禅修行では、経行(きんひん)とも呼ばれます。
参考:動画で解説! 不安、ざわざわがリラックスする、5分間の心落ち着き瞑想。
ゾンビみたいに、ゆーっくり歩くので、関係ない人にとっては、怪しい集団に見えるでしょうが、ゴールを持たずに、歩くこと自体が目的だと一歩、また一歩と足を運ぶのは、異空間に入ったような感覚がします。
参考:5分歩くだけで不安や怒りが消える。自分の部屋でできる歩く瞑想の行い方
とはいえ、最初の方はマインドフルな時間を味わうというよりも、あの木の先まで行こうとか、前の人の歩くスピードが遅すぎるなとか。やっていることそのものになるというのが簡単に見えて、とっても難しいなぁと、自分の頭のなかの根強い設定に気づかされるばかりで終わってしまいます。
その後は、輪になって、お互いの話に○も✖︎もつけず聞き合います。
あるサンガの世話役に60代後半から70歳ぐらいの白人女性がいらっしゃいました。
仮にデイジーさんとします。デイジーさんは離婚していて、30代の息子さんがいますが、彼はもう独立しているので、おひとりで生活されていました。日本のアートがお好きで、わざわざ日本から取り寄せた畳をリビングに置き、70年代には夫婦で常滑焼きを手に入れるために愛知県ほか四国を旅したそうです。
そんな大の親日家ということもあって、デイジーさんは、日々会おう会おうと連絡してくれました。「あなたは、私のとても大切な友達よ」と。英語がよくわからない私は、とにかくデイジーさんが発する単語を一つとして聞き漏らぬようにと、彼女の話に真剣に耳を傾けていました。
やがて大学に通うようになって、いろんな単語を教えてもらうことになります。恐怖症のことをフォービアというんだと、なんだか賢そうな言葉もわかるようになりました。
で半年ほど経ったときに、いつもデイジーさんにお話ししてもらってばかりなので、自分の意見も少しずつ語り出したんです。地雷を踏む可能性がある、政治や宗教の話ではありません。たわいもないことです。日本の芸術がお好きだったので、わびさびについてか、そんなことを話したんだと思います。
すると突然彼女の表情が固くなりました。当時は、やっぱり私の英語がおかしいからかなぁ、聞きづらくてしんどいのかなぁと、ちょっと反省したんです。そして、少し傷つきもしました。
でもそういうことではなかったんですね。今は、その理由が少しわかるようになりました。
デイジーさんは、話を聞いてくれる相手が欲しかったんです。自分のことをしゃべりたいけど、周りに聞いてくれる人がいなかったんです。
英語が母国語ではない私は、必死にヒアリングしようとするため、とても良い聞き手だったのだと思います。当時の私には英語が話せないというコンプレックスが濃霧のようにかかっていたので、彼女のニーズがよく見えていませんでした。
デイジーさんは私の意見を聞くことは、求めていなかったんです。そういう関係性ではなかったんです。それがわかっていれば、もっと長くデイジーさんと友達でいられたのかな。
これは、彼女に限りませんでした。
アメリカでインターンとして採用されたときも、社長にこんなことを言われました。
「どうしてたくさんの応募者から、キミを選んだか、わかる?」と聞かれて、
「全然わかりません」と答えると
「面接で1時間以上かかったでしょう?」と言われます。
「はい、ずいぶん贅沢に時間をとってくれるなぁと思いました」と答えると、
「あのあいだに、なんか違うなってことをキミが言ったり反応したりするかなと、ちょっと意地悪な気持ちでずっとみてたんだけど、それが全くなかった。いつもこちらの話を中断せずに最後までちゃんと聞いて、言葉を選びながら正直にじっくり考えながら答える。その様子がいいなと思ったんだよ。面接中に『自分はこれができる』『あれができる』とアピールしてきて、こちらの話のこしを途中で折るタイプの人が多いけど、私はあれがすごく嫌いなんでね」と。
なんだぁーー、良い感じのことを
話せなくったって、いいんだ!
目からウロコでした。
そして、こんな地味な部分だって評価してくれる人がアメリカにもいるんだ、と救われた気持ちにも。
でもよくよく考えてみたら、「一緒に居たいな」と思われるために良い聞き手であることが大切って、万国共通ですよね。
調子に乗って、
「あ、社長。それはですね。私は英語がよくわからないので、聞いた英語を日本語に翻訳して、話す日本語を英語に翻訳して会話しているんです。だから、即反応できなくて、自然にタイムラグができるんです。結果、思慮深く見えていたなら、ラッキーですけど、からくりはそんなところです」と答えると、
「そうだったのかぁ! だまされたなぁ!」と爆笑されましたが。
振り返れば、新卒でマガジンハウスに採用されたときにもこんなことが。
後日人事担当者に
「キミってずっと隣の学生の話を熱心に聞いていたよね。アレってテクニックなの?」と聞かれてびっくり。ただ自分にまったく自信がなかったので、中国語ができるとか、みんなすごいなーと感心していただけなんです。
自己肯定感の低さが有利に働いた、稀有な例です…。
それで、人って、相手が話している内容だけじゃなくって、その人の全体の空気感とか、その場のあり方とか振る舞い全体として、その人のことを判断しているのだなと教えられました。
だから、「この人ともっと一緒に居たいな」と思ってもらえるためには、鋭い意見やキレル言葉が言えなくったって、良いんですね。
これをもっと具体的なメソッドとして、苫米地英人さんが、著書『一瞬で相手をオトす洗脳術』(刺激的なタイトル!)であらゆるコミュニケーションに役立つ一目惚れのテクニックとして挙げています。
心理学ではパッシブ・ハーモナイゼーションとも呼ばれますが、
1) 相手との呼吸を合わせる
2) リラックスしながら、相手にとって居心地の良い空間を作る
3) お互いの呼吸があったときに、コーヒーカップを動かす、ネクタイの結び目を1,2度
いじるなどして、物理空間を変える
(共有空間の支配者であることを相手に無意識に示す)
ー『一瞬で相手をオトす洗脳術』より
とあります。
そこで相手にとって自分の印象を良くするために大切なのは、まずは自分がリラックスすることなんです。その結果、その人が気持ちよく話せる空間ができるんですね。
感情と心臓の関係性を研究する米ハートマス研究所も、心拍変動(吸う息と吐く息の心拍数の差)の調和が取れている人の心臓の電磁場は、周りの人にも良い影響を与えるといっています。
カウンセリングやヒーリングでも、セラピスト自身が落ち着いているだけで、クライアントの心の揺れ動きを鎮める効果があるとされています(『ソマティック心理学への招待 身体と心のリベラルアーツを求めて』より)。
だから、ホリエモンみたいに鋭い意見が言えたり、ダライ・ラマ法王みたいに深い言葉をかけられたり、大学の先生や専門家みたいに賢いことが思いつくのもすごい能力だし素敵ですが、そうではないからと焦ったり、自分を否定しなくてもいいんです。
できなくても良いんです。
むしろ、相手が気持ちよく話せる空間をつくること。ちょっと話すことをお休みして、無理をしないで、私たちが、ただ心地よく、リラックスした状態であることに集中するだけで、うまくいくんです。