会社に入って10キロ以上太ったことがあります。入社したときは171㎝で48キロの痩せ型でした。でも20代半ばぐらいからどんどん太って、気づけばポッチャリ。当時のあだ名は「がばい(がばいばあちゃんから)」でしたからね…。仕事でヘロヘロなのに毎日ジムに行ったり、りんごやバナナだけの朝食を続けたり、あれは食べちゃダメ、これは食べていいってやっても全然痩せない。目もむくむし、顔の大きさも2倍ぐらい(涙)。
でもあるときから痩せだして、ぴたりと太らなくなりました。今は食事制限やカロリー計算も全くしていません。私は顔とお腹周りにお肉がつきやすいので、そうなると野菜や果物を意識的に食べたりするぐらい。ストレッチはするけど、ジムにも行っていません。
太っていたときは今とは違い、おなかが空いたから食べていたんじゃありませんでした。そして今は昔と違って、「美味しい」と思って食べています。
エモーショナル・イーティング(感情摂食emotional eating)という言葉をご存知ですか。
それは「お腹が空いた」という体の求めからではなく、感情で食べること。心寂しかったり、ムシャクシャしたり、満たされない思いや心にぽっかりと空いた穴を埋めるために、過食のスイッチが入る。
私がどんどん太っていた頃は、まさにこれでした。本当は怒っているのに、周りの空気をよんで笑ったり。広告部時代は編集者と同行して展示会などに行くと、そこにいるのに存在すらしないという扱いで「私はここにいるのかな?」と。何を言われても耐性がつき、どんな扱いでも「これはロールプレイングゲーム」と平気になっていきましたが、体はどんどん太っていくんです。
ハワード・ファーカス博士は、エモーショナル・イーティング専門の心理学者で 『エモーショナル・イーティングを終えるための8つの鍵(8 Keys to End Emotional Eating)』という本を出版しました(1)。彼はセラピストとして、嫌な気分を和らげるために食べ過ぎてしまう人を何年も診てきて、その性格は典型的な4パターンだとか。
ストレス過食してしまう典型的な4タイプ。
*他の人の気持ちをなだめるために自分の欲求を二の次にし、怒りを感じている。
*自分は人生で成功するに値しない人間だと思い、恥をかくことを恐れている。
*完璧主義で自分の行動で間違いを犯すことを心配している。
*コントロールを失うことを恐れて、ネガティブな感情すべて抑圧している。
このなかでどれか当てはまる項目はありますか?
ファーカス博士によるとこんな人たちがエモーショナル・イーティングによる過食に陥りやすいそうです。
買い物中毒、アルコール依存症、恋愛依存症、チェーンスモーカーなども基本的に同じで、心の飢えを満たすアプローチの仕方が違うだけ。
感情的な成長や精神的タフさを身につけない限り、ダイエットに成功してもまたすぐにリバウンド。私は10年ぐらい、太ったり痩せたりを繰り返していました。太らなくなったら、次は買い物依存症気味に(苦笑)。買い物に関しては、職業的な事情もあったのですが。
私たちの心には“奪われる”ことへの恐れがあります。とくに誰もが根源に持つ、「外の力に振り回されず、自分の人生をコントロールしたい」という自律性への欲求は手放したくないものです。
それはすでに1歳半から3歳頃から芽生え、「なんでも自分でやりたい」とコップから水を飲もうとしてこぼしたりと失敗しながら「できた!」を重ねて子どもの心は大人へと発達していきます。
食事制限によるダイエットは、意志の力で「なんでもしたい」という自律性への欲求を抑える手法。ダイエットの厳しいルールに従い成功していても、疲れていたりストレスで意志の力が弱まれば、食べるという手軽な憂さ晴らしで「“好き勝手に行動できる自分”を再認識したい」と無茶食いしてしまうのです。
これが俗に言うリバウンド。
ストレスホルモンがさらに偽の食欲をアップ!
短期的なストレスは食欲を抑制する可能性がありますが、それが長引いたり、慢性的な状態になると副腎がコルチゾールというストレス・ホルモンを出して食欲を上げます。そして「ホッとする食べ物」として選ばれるのは、糖分の多い、高脂肪・高カロリーの食品 (2)。
ファーカス博士は心の飢えによる過食を克服するには、意志の力を駆使するダイエットではなく、食べることで自律性を取り戻すことが必須だといいます。つまり、”お腹が空いたら食べる”、”美味しいと味わって食べる”という食との基本の関係性を再構築するということです。
食べ物を、良い悪いで判断していませんか?
「痩せたい」目線になると食べ物を「食べても良いヘルシーな食べ物」と「太りそうな悪い食べ物」と分類します。「食べていいのはこれだけ」と決めてしまうとダイエットの近道に見えて、実は何をどれだけ食べたいかという体のサインをキャッチできなくなります。意志の力が強いときはこれでもうまくいきますが、痩せる目標を失ったり、疲れていたり、ショックなことが起こったりしてたかが外れてしまうと、心のたずなが緩んでリバウンドするのです。
食べ物にどんな風味や食感がするのか、空腹や心と体をどう満たしてくれるかと感覚に意識的になることで、ひと口の喜びが最大化します。その結果、少量でも満足度が高まって食べ過ぎなくなるのだとファーカス博士は言います。
大好物で食べる瞑想を。
ではあなたの大好物を五感で味わう「食べる瞑想」(マインドフル・イーテイング)を練習してみませんか。私は毎週一度好きなケーキ屋さんで、お気に入りのケーキと食べたことがない新しいケーキを買って、これを行っています。
1.大好物を手にのせます。どんな感触がしますか?
2. 生まれて初めて見るもののように観察してみます。どんな色や形ですか?
3. 少し顔を近づけてみます。どんな香りですか? 今までそれに気づきましたか?
4. 口に含んで舌にのせます。少しずつ味わいが強くなっていきます。唾液が出ます。少しずつ味わいが薄れていきます。噛んでみるとどんな食感ですか?
5. ゴクンと飲み込む音に耳をすませましょう。喉から気管へとスイーツが移動していく様子はどんな感じですか?
これは私がティク・ナット・ハン師というお坊さんに食べる瞑想を習ったときの内容をアレンジしたものです。600人の合宿中は毎食このように全員肩を並べて無言で食べるわけですが、本当にびっくりしたのが日を追うごとに食事量が減っていくこと。私は5日間で2.5キロ体重が減りました。さらに素晴らしいのは、食べる瞑想を毎食行うお坊さんも尼さんもファンデいらずのピカピカ肌なのです。
私たちの多くは、食事制限やカロリー制限、エクササイズなどのコントロールがダイエットだと同一視しています。しかしファーカス博士は、食べ過ぎないために大切なのは、自律性を取り戻すことだといいます。
「自律的であることは、自分の責任で処理する能力と自由を持つことです。”こうでなければならない”と外からコントロールされると感じるのはその反対です」。
あれを食べちゃいけない、これだけダイエットではなく、むしろ“私はこれを食べている”としっかり気づきながら食事すること。これがリバウンド知らず、美味しい、マインドフル時代の幸せダイエットの鍵ということです。
参考
(1) https://greatergood.berkeley.edu/article/item/how_to_break_free_of_emotional_eating
(2) https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/why-stress-causes-people-to-overeat