セルフ・コンパッションで恐れを抱きしめ、絶望を光に変える

傷は、あなたに輝く光が入る場所。

これは有名なスーフィズムの神秘主義詩人・ルーミーの言葉。では傷って、いったいなんでしょう。過去の失敗、汚点、認めたくない自分のイタイ部分、できないこと、持っていないもの、ダークな一面というところでしょうか。

 

嫌ったり、無いものと押さえ込んでいた、自分のかっこ悪さとか、意地悪さとか、本音の部分とか。心理学者のユングは、そんな自分の暗い分身をシャドウ(影)と呼びました。

 

私たちはそんな影を受け入れたとき、光を含めたもともとの私たちの球体に戻ります。シャドウと光の自分を統合させることで完全な自分に戻る。できないこともあるし、できることもある。イライラすることも、思いやり深いところもある。がんばることもボーッと何もしたくないときもある。全部が私。

 

私たちは、幸せに戻るために生きています。人生の目的はそれに尽きるでしょう。頑張ったり人に認められるためではありません。それは本質ではありません。そして幸せの創造は誰かにやってもらうことではなく、自分で行うこと。誰も代わりにできないんです。自分で自分を幸せにするとは、変わっていく自分、豊かになる自分、幸せになる自分を許すということ。

 

それは、ありのままの自分を受け容れることで始まります。

心理学者のカール・ロジャースもいいます。

興味深い逆説ですが、ありのままの自分を受け容れたとき、変わることができるのです。

The curious paradox is that when I accept myself just as I am, then I can change.

 

性格は変えようとしなくていい。

私がanan編集者だったころ“嫌な性格を変える”という特集で、第一線で活躍し続ける人気俳優さんを取材・撮影させていただいたことがあります。

 

冗談を交えて、終始和やかなムードのインタビュー中に、彼はネガティブな自分の影の面こそが創作活動の源になっているとお話ししてくださいました。

 

彼のように失恋の経験や、満たされない思い、大病や挫折、悲劇的な体験などが原動力となって、その負のエネルギーが極限まで高まり、反転して小説や音楽、絵画などの芸術に結実することを昇華(しょうか)といいます。

 

そして彼は“性格を変える”という特集で、とても大切なメッセージを伝えてくれたのです。

 

「自分にも他人にも人生にも期待しすぎず、“大丈夫”“これでいいのだ”とシンプルになって、あるがままを受け入れられる人こそが性格美人だ」と。

 

あるがままの逆は、ワガママ(我が儘)です。正しい、間違っているという価値判断があって、それに沿って思い通りに運ばないと気が済まない。

 

「あの人は失礼だ」「社会が悪い」と責めて、不満が外側に向かう場合もあります。「私がダメなせいだ」と矛先が自分に向かうときもあります。外側に向かうと世界は怒りや不満でいっぱいで、自分へのダメだしが続くと、やる気が出なくなったり、気分が滅入ったりと元気になれません。

 

それはどちらも心の傷からきています。

 

心の傷を癒す治療薬は、自分への思いやり「セルフ・コンパッション」です。

自分自身を許すこと。ありのままの自分を愛すること。




4歳の自分が自己流ダンスを笑顔いっぱいで踊っているとしましょう。それを「へたくそ!」「足が短い!」なんて酷評しませんよね。一生懸命で可愛いです。心から応援したい。そんな気持ちでいつでも自分のことを見守ってあげるんです。もう4歳ではないけど。

 

心理学者カール・ロジャーズは、「不安は今の自分を受け入れられないことで始まる」といいます。

 

新しいものをやってみるのが怖いとか、何かや誰かに腹が立つとき、その原因は失望することへの恐怖心にあります。それは現実が思った通りに運んでくれないことへの失望。ありのままの現実はダメだ、という痛みです。

 

現実をニュートラルに捉えるためにも、セルフ・コンパッションが欠かせないというのが、セルフ・コンパッション研究のパイオニア、クリスティン・ネフ博士です。具体的にどうすればいいのでしょう?

 

セルフ・コンパッション 3つのキーワード

 

1.自分に優しくすること。大切な友達に接するような心で自分をわかってあげる。
2. 誰も完璧じゃないし、苦しんでいるのは自分だけじゃないことに気づく。みんな欠点があったり失敗すると、他の人とのつながりを感じる。
3. みじめな気持ちや悲しみを無視しないで、「すごく辛い。今自分に思いやりや優しさが必要」とありのままの気持ちを認めて、それを癒すための行動をとること。

 

もし大事な友達が仕事のことで悩んでいたとしたらどうしますか? その友達が元気になるまで話を聞いてあげますよね。では自分の気持ちに同じようにちゃんと耳を傾けてあげていますか?

 

キラキラしているあの人には苦労がないのでしょうか? InstagramやFacebookのポストがどんなに輝いていても、その心の内は本人にしかわかりません。著名人の方々の心痛むニュースからも改めてそれを学びます。

 

誰かにわかってもらえないと辛いのは、実はあなたが自分の本音を無視しているから。

 

「悲しいね」

「あれはひどいね」

「いまどうしたい?」

「そっか美味しいコーヒーを飲んで気持ちを落ち着かせたいか」

「じゃあ、そうしよう」

そうやって席を立って、コーヒーを飲みに行ってあげて。それを自分に許してあげて。

それが、ありのままの自分の気持ちを聞いて、癒すための行動をとることです。

 

私はこれがずっとできなかった。それで無意識だったけど、いつも誰かが優しい声をかけてくれたり、評価してくれたり、私の傷を塞いでくれるのを期待して、そうされないと失望していた。もうこれは止めよう。そうして私はセルフ・コンパッションの練習を毎日、毎瞬しています。いま一番頑張っているのは、これかも。慣れないからちょっとビクビクするんですけどね。「こんなに自分に優しくしてもいいのかな?」って。

 

自分をケアするなんて、ワガママで自分勝手だとためらいますか?

でも、大丈夫です。

 

私が知っている本当の意味で自分のことを受け入れている人たちは愚痴も表裏もなくて、一緒にいて清々しいぐらい気持ちがいい人たちばかりです。私のパワースポット。

 

本当の意味で自分を大事にする人は、私のことも大切にしてくれるから。

私が自分を大事にすることも許してくれるから。

だから、私も自分のケアをすると決めたんです。

 

それは湖に落とした石のようなものです。

癒しの波紋は少しずつ周りに広がって、やがて湖全体に広がります。

あなたの癒しは、あなた以外のすべての人の癒しになります。

あなたは全体意識という大きな湖のなかで、あなたという一滴の水、命を任されている自分です。

だから毎日ひとつ自分の本音に向き合って、優しくしてあげてくださいね。

私は今日、母が焼いて送ってくれたフルーツケーキを美味しくいただきました。