怒りや衝動から自由になる!古い脳と新しい脳の回路を繋ぐマインドフルネスが効く理由。

ムッとして自分の立場を守ろうと思わぬことを口走ってしまったり、慌てて必要がないものを衝動買いしてしまったり。自分自身を守るように感じる言動で、実は自滅してしまっている…。冷静に考えたらわかることも、いろんな思いや価値観にあふれる社会で生活し働いていると余裕がなくなって、ザワつく気持ちに振り回されてしまうというのが常日頃です。そんな怒りや衝動を解決するのに効くとされるマインドフルネスで強調されるのは、今ここに意識を向けること。でもなぜ効果的なの? それは、脳の機能や構造を研究する神経科学の側面から説明することができます。鍵を握るのは、私たちの古い脳と新しい脳。解説していきます。

私たちには古い脳と新しい脳がある。

脳には古い部分と新しい部分がある? 一体どういうことでしょう。神経学(ニューロサイエンス)では、思考は大脳の前側にある前頭葉から生まれ、感情はさらに奥の、扁桃体をはじめとする大脳辺縁系が担当すると考えられています。進化の過程において、この思考をつかさどる前頭葉が新しい脳、感情をつかさどる大脳辺縁系が古い脳です。例えばこの新しい脳は、猫では全体の3.5%、犬で7%、人間では29%をしめるとされ、人間は他の動物に比べて大きく発達しています(1)。

新しい脳には、目的やゴールにしたがって計画を立てたり、行動を判断したりする働きがあります。思考や判断の中心的な役割を果たして、感情のまま自滅行動に走らないようにコントロールします。例えば、危険なギャンブルにハマる人は、新しい脳の前頭葉がうまく連携・機能していないことが原因の一つと考えられています(2)。

フィネアス・ゲージという不慮の事故で、前頭葉を失った男性がいます。彼の場合も、事故の前は礼儀正しい働き者だった性格が、新しい脳を損傷したためにまったく変わってしまって、口汚く罵ったり、怒りなどの感情のコントロールができなかったり、将来の計画も立ててはすぐに辞めてしまうようになりました(3)。

つまり、古い脳が主に活動しているのは、危険だと察知して怒りをそのままあらわにしたり、衝動的に行動するなど、“現在に関して”、今目の前に起こっていることへの反応です。それに対して、新しい脳は、”本質に関する活動”、つまりその場でどう行動すればゴールに向けて最善なのかを見抜いて判断を下します。

2つの脳がうまく連携すると、最善の行動が取れる。

古い脳で視野が狭くなり、衝動的に行動してしまうというなら、新しい脳だけ機能させればいいじゃないかと思いますが、私たちはロボットではありません。感情を持つ生き物です。「人を救いたい」と医師を目指したけれど、毎日亡くなる患者さんを目にして、心が折れそうになるときもある。いつも優しい母でいたいけど、子どもの行動に腹を立ててしまうこともある。そんなときは新しい脳が「ゴールに向かって前進し続けなさい」と言ったとしても、そんな自分の気持ちをいたわったり、立ち止まって休むことも大切なのです。



大阪 中崎町に「Salon de AmanTo」というコミュニティカフェがあります。コロナ渦で客足が遠のいたとき、その店主のJunさんではなく、「この場が無くなって欲しくない!」という思いがあふれたお客さんがクラウドファンディングを始め、目標額を遥かに上回る支援金を得たそうです。この例のように人を動かすのは思考よりむしろ感情であると、感情と道徳の関係について研究する社会心理学者ジョナサン・ハイトは言います(3)。

とはいえど、Junさんが自身の人生経験から「考えるように感じ、感じるように考えるとうまくいく」とお話しされていましたが、感情と思考は一つのプロセスです。切っても切り離せません。そこで、古い脳から感情という情報を得て、新しい脳が思考することで、より適切な判断が下せるようになります。逆も然りです。そこで「考えるように感じ、感じるように考え」ながら、この二つをうまく結びつけることが望ましい行動を取るために重要です。

[37] 考えるように感じ、感じるように考える

古い脳と新しい脳をつなぐマインドフルネスで心が自由に!

そこで役立つのがマインドフルネスです。マインドフルネスとは、今ここに心を集中させること。それは、「ムカついている」「悲しい」という今の気持ちを自覚していたり、皿洗いをしている水の温度を実感していたりする状態。去年でも、昨日でも、来年でも、明日でも、5分後でもない、今、この瞬間自分になにが起きているのかを観察することです。

これでわかる!マインドフルネスとは何をするのか、どういう状態か。ヴィパッサナーとの違いは?

動画で解説! 不安、ざわざわがリラックスする、5分間の心落ち着き瞑想。

呼吸だったり、手の感覚だったり、今の気持ちだったり、何かに意識を向けて集中し、いまの自分を見て感じて気づくことです。瞑想などでこれを繰り返すうちに、感じたことと思考して判断することの間に小さなスペースが生まれ始めます。すると今まで自動操縦的にムッとしたりカッとして反応していたことに空間が生まれ、一歩引いた視点で冷静に見ることができ、それをするメリットが実はないことに気づいたら、行動も変わっていきます。マインドフルネスを行うことで、古い脳と新しい脳を連携させる回路ができるのです。自由とは怒りや衝動が全くなくなることではありません。また単にヒッピーのように好き勝手に生きたり、制度やルールから解放されたりして得られるものでもありません。自由の本質は、ネガティブ感情を感じることを自分に赦し、それに振り回されず自分の意思で納得して行動を決められること。そんな余裕が得られること。マインドフルネス力を磨くことでそれが叶えられます。

  1. https://bsd.neuroinf.jp/wiki/前頭前野
  2. https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2017/documents/170404_1/01.pdf
  3. Keltner, D. Oatley, K. & Jenkins, M, J(2014,2006). “Understanding Emotions”. John Wiley & Sons, Inc.
  4. デヴィッド・ボーム著、金井真弓訳『ダイアローグ 対立から共生へ、議論から対話へ』(英治出版、2007年)