あいつぐ災害や新型コロナウイルスのニュース、さらに個人的な問題と、わたしたちは多くの時間、深刻な問題に取り組み、大変な仕事をし、厳しい会話をして過ごしています。そんなつらい状況に対処するには、ユーモアが役立つという研究結果があります。今回はGoogle社でマインドフルネスを教え、SIYLI創設者のチャディー・メン・タン氏による遊び心満載なマインドフルネスを育む5ステップ「子犬の瞑想」をご紹介します。
目次
魂を解放するユーモアは、つらい気持ちの特効薬。
哲学者のショーペンハウアーは、ユーモアこそ魂を自由な状態に保つことを可能にする、人間にあって真に「神的な」性質だといいました(『自我と無意識』より)。
それを裏付ける研究結果があります。ユーモアがトラウマ的な状況に対処するのに役立つという証拠がいくつかあるんです。
たとえば笑うことはドーパミンを放出し、血流を増加させ、心臓を強くするそうです。さらにある研究では、ネガティブな感情を和らげるのに、ユーモアはポジティブなものよりも効果的であるとされています。
笑いの効果は笑いごとじゃないんですね。
わたしがアメリカで心理学を勉強していたときのことです。
ある日の大学からの帰宅途中、午後8時ごろのバスで、男性にPCが入ったリュックを奪われそうになったんです。アメリカで夜に女性ひとりでバスに乗る方が非常識だったのかもしれません。しかし中年過ぎての学び直しで英語は不十分、さらには心理学の予備知識もゼロだった当時のわたし。どうやっても自習に時間がかかってしまうんですね。眠くなると英文が読めなくなるので、夕食を絶食するほどでした。そこで夜バスに乗らざるを得なかったんです。
その一年前のサンフランシスコの語学学校に通っていた頃にも、ケータイと財布を強奪されてしまったことがあるので二度目です。どう見てもお金がありそうにはなかったのですが、振り返れば、ネギを背負ったカモ的な簡単に御しやすそうな匂いをぷんぷんさせていたのでしょう…。
そんなどん底なとき精神的に救ってくれたのが、ロバート秋山さんの『クリエーターズ・ファイル』です。どんなに追い込まれていても一日15分間は観てもいいと、自分に許していました。
そして学校のカフェテリアでイヤホンをしながら視聴し、ひとりクスクスと笑って落ち着きを取り戻しては教科書に向かっていました。実際研究によると、ユーモアは人と人との絆を深め、教室での学習やオフィスワークを促進する力もあるそうです。
最近は、東海林さだおさんの『おでんの丸かじり 』。「ごまめの歯ぎしり」の項など、声を出して笑ってしまいます。両親が高齢になり、検査・手術・入院が日常化してきたなかで、この本は我が家のヒーリングメディスンとなっています。
遊び心を持ってマインドフルネスを育む「子犬の瞑想」
このようにユーモアを大切にし、作家オスカー・ワイルドの「人生は深刻に受け取るには、重要すぎる」を生きるモットーにして、マインドフルネスを指導する人がいます。
Google社の元ソフトウェアエンジニアとしてマインドフルネス教室をはじめ、現在では世界中の人たちにマインドフルネス指導を行うSIYLI(Search Inside Yourself Leadership Institute)創設者のチャディー・メン・タン氏です。
彼は著書の『Joy on Demand: The Art of Discovering the Happiness Within』で、遊び心を忘れずにマインドフルネスを育む姿勢について説明しています。
マインドフルネスの基本のやり方:不安、不眠がラクに!…「話題のマインドフルネス」簡単丸わかり!
それを「子犬の瞑想」と呼び、子犬のしつけにならった5つのステップをとっています。
参考:5分歩くだけで不安や怒りが消える。自分の部屋でできる歩く瞑想の行い方
「子犬の瞑想」の5ステップとは?
ステップ1:Relax リラックスする
リラックスして、子犬(心)が迷子になるのを許してあげてください。でもあっちこっちと行き過ぎていたら、愛情深くそっと優しく連れ戻します。
ステップ2:Rejoice 喜ぶ
さて、子犬はあなたに慣れてきて、あなたを愛し、あなたの隣に座ることが好きになってきました。子犬が隣に座ったら、喜びます。子犬が迷子になっていると気づいたら、愛らしい子犬と一緒なことを喜びつつ、そっと連れ戻しましょう。
ステップ3: Resolve 解決する
子犬が幼犬になり、トレーニングする準備が整いました。トレーニング中は、優しく愛情深く、しっかりとしつけ(注意)すると決意します。
ステップ4: Refine 洗練させる
幼犬が適切にトレーニングされた今、彼(女)のスキルを洗練させるときがやってきました(呼吸の微妙な感じの違いに注意を払います)。
ステップ5: Release 手放す
犬は十分に訓練されています。もう自由に解き放ってもいいでしょう(すべての努力を手放し、心をただあるがままにしてください)。
ー『Joy on Demand: The Art of Discovering the Happiness Within』より
ティク・ナット・ハン師にならった、微笑んで行う瞑想。
わたしに初めてマインドフルネス瞑想を教えてくれたのは、タン氏もまた彼からマインドフルネスを教わったという禅僧で平和指導者のティク・ナット・ハン師でした。
離婚後に彼のマインドフルネス合宿に参加したのです。人生初のマインドフルネス瞑想では、なぜか涙が止まりませんでした。その後、わたしの人生は変わりました。
そこでは以下の微笑み瞑想を教わりました。
息を吸いながら、微笑んでいることを意識する。
息を吐きながら、リラックスし、喜びに触れていることを意識する。
そして歩くときは、大地にキスするように一歩一歩踏みしめるのです。
マインドフルネス瞑想の実践は、ひたむきに粘り強く。でも優しく、軽やかに、遊び心を持っておこないます。
あなたのなかに起きる変化を見つめ、瞬間瞬間に心を開いて、それを優しく受け容れて活用しようというときにユーモアは大きなサポートになります。
内側の変化は外側の世界を展開させていきます。あなたが微笑むことで、やがて世界もあなたに微笑んでくれることでしょう。