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夢に向かうと訪れる試練、「シャーマニック・テスト」。
たとえばダイエットしようと思った途端、おいしそうなスイーツが職場で配られたり、気になるセミナーを予約すると家族が病気になってしまったりという経験はありませんか? あるいは仕事を変えようと思っていたら、辞めたいと思っていた内容で高額の発注がきたり。このような自分の夢や願いに向かって動き出すと起こる試練を、シャーマニック・テストと呼びます。それは願望実現に向けたあなたの決意を問う、宇宙のお試しのようなもの。変化に対する私たちの無意識の抵抗が目の前に現れているのです。
無意識の変化への抵抗、ホメオスタシスとは?
ホメオスタシスという言葉はご存知でしょうか。恒常性維持機能とも呼ばれますが、外側の変化や生理機能の乱れに対して、物事を現状に止めようとする自然の傾向性のこと。世の中すべてのシステムに内在する性質です。
たとえば、汗をかいて私たちの体から水分量が減ると、喉が渇いたなと感じます。それで水を飲もうとなって、生命を維持するための体の水分量を一定に保ちます。
水分を摂取できない場合は、汗の量に付随して尿の量が減ります。体から排出する水分量を一定にすることで、体内水分量を保つのです。
これらは私たちの体のホメオスタシスです。
そして、私たちの心にもホメオスタシスが働きます。
たとえば、嫌な出来事で怒りを感じると、喉の渇きのように“主張したい”“発散したい”という心のアラームが着火します。そこで怒りも抑圧したり無視したりするよりも、本来は適切な取扱法で取り上げて発散させる方がよく、それによって心の均衡が保たれます。
参考:怒りで自分をケアし、幸福度を上げるアンガーマネージメントの6ステップ
つまり私たちには生存機能として、現状のままに自分を保とうとする働きが潜在意識の深い部分に備わっているということ。
やけになって無謀な選択をしてしまわないために、ホメオスタシスは私たちを守ってくれています。
ところが私たちが夢や願望を叶えるときは、自分のコンフォートゾーン(ラクでいられる範囲)を超える必要があるため、ホメオスタシスが抵抗として逆作用してしまうのです。それは古い自分の死を表すからです。
いまは見てない景色、体験していない夢に向かうためには、古い価値観ややり方を手放す必要があります。しかしまだ新しいやり方を自分のものにしていないときは、ホメオスタシスが「危険だ!」と変化に対する無意識の抵抗として働くのです。それは古い自分(世界の方程式)の死滅になるから。
つまり、慣れ親しんだ古い考えや行動にゆり戻されてしまいます。
そこで聞こえてくる心の声は、
今じゃない、私なんて十分じゃない、才能がない、スキルがない、お金がない、時間がない、人脈がない、といったようなものです。
その内側の声を現すように、外側の現実として、誰かに同じようなことを言われたり、すごい人が現れて自分と比較して落ち込んだり、目標としていた数字がつかなかったり、なにか足止めを食らうようなことが起きるかもしれません。
なぜなら、私たちが見ている現実は、自分が重要だと思っているものだけが見えている世界だから。
具体的には、私たちの脳は毎秒4億ビットもの情報を処理していますが、そのうち意識にのぼるのはわずか2000ビットに限られています。
脳幹にあるRAS(網様体賦活系:もうようたいふかつけい)という場所で、情報をふるいわけて重要と注意を向けたもの以外はシャットアウトしているのです。まったく無意識に。
つまり、私たちが見たり触れたりして「これだ」「こうなはず」と思考する「現実」とは、実際の世界の0.00005%というごく一部の情報に過ぎません(『自動的に夢がかなっていく ブレイン・プログラミング』より)。
そこで潜在意識が変化を危険だと認識していたら、たとえばこんなことが起こります。
貯金しようと思っていたら欲しかったものが値引きされていたり、ダイエットしようとしていたら大好物が店頭に並んでいたり、本当はモヤモヤしていて辞めようと思っていた仕事なのに、高額で同じ内容の新しい発注がくるなど、です。
シャーマニック・テストか、道からズレているのかの見極め。
変化を恐れる心がシャーマニック・テストを映して、「それでもやりますか?」「本気ですか?」とあなたの本音を確かめているんです。
また足止めを食らっても、遠回りに見えても、焦ったり諦めたりする必要はありません。見えないレベルでの時間調整で、必要な学びを経験して最適なタイミングで夢や願望を実現させるためのタイムラグという可能性があるんです。
「人間万事塞翁が馬」(じんかんばんじさいおうがうま)」ということわざもありますが、逃げてしまった馬が野生の良馬を連れて帰ってきてくれるかもしれません。息子がその馬から落ちて骨折したけれど、そこで戦場に向かわなくて済んだのかもしれません。
電車に乗り遅れたことで、あなたの身の安全が守られたのかもしれません。病気や別れを経験したから、より深い部分で人の気持ちがわかるようになったのかもしれません。裏切られた経験は、人を見る目を養うための学びだったのかもしれません。
目の前の出来事はすべて自分に何かを教えてくれるために自分が引き寄せています。
とはいえ足止めばかりかかってしまうとき。それはシャーマニック・テストではなく、単に道からズレているサインだという可能性もあります。つまり、実はあなたの深い部分では、その願望を求めていない、あなたのいくべき道ではないということ。
自分の望みにみえて、それは親の願いを叶えたいという気持ちだったり、周りの人を納得させたいという思いだったり。人生を他人のルールで行うレースとして勝たねばと奮闘し、ホンネの願望を差し違えてしまっている場合があります。そんなときは、あなた本来の物語をつくるために目標が達成されていないのです。
シャーマニック・テストか、道からズレているかの見極めは重要です。
深い部分の自分と自分で対話するという内観や、信頼できる人に傾聴してもらうカウンセリングやコーチングで、それがお試しなのか、自分の物語からズレているのかを確認しましょう。
参考:一緒にいると、本当に癒される人の特徴。ヒーラー、カウンセラーの役割、選び方とは?
同じ傾聴でも違う、カウンセリングとコーチング。
カウンセリングとコーチングは、どちらも深い傾聴がベースになります。二つの大きな違いを挙げるとすれば、カウンセリングの主たる目的は、クライアントの深い癒しや人間的成長です。心の深い変容によって人生全般が変化することを目的にしています。
コーチングは、クライアントの目的達成のサポートと伴奏です。深い気づきで行動を変えて、特定の結果を得ることを目的にしています。
*コーチングに関するオススメの本:コーチング・バイブル(第4版)―人の潜在力を引き出す協働的コミュニケーション
当然カウンセリングとコーチングには傾聴だけでなく、オープンリードなど共有する部分もあります。境界線をはっきりとは区別しきれず、カウンセラーやコーチの方針や信条によって定義も異なるでしょう。
私はお話を伺うときはカウンセリングとエネルギーヒーリングをベースにして、必要と感じたときにコーチングの要素を取り入れます。しかし、どの手法をどういったバランスで行うにも、クライアント本人が自分で答えを見つけていくことに心を傾けています。自分で選んだという実感はとてもパワフルなものですし、人には自分で自分の最善を選ぶ力があります。
選ぶという経験はとても貴重なものですし、万が一期待通りの結果にならなくても、その人自身が望み直したり選択し直したりできるという力強さが持てるからです。
誰かに依頼せず、自分で自分の深い部分(直感、魂の声、ホンネの感覚など)を傾聴し、答えを得る場合のポイントは? ひとつ挙げるとすれば、それがあなたの本来の道であれば、「これをするんだ」という思いが静かでスッと入ってきて、深いYESの感覚に触れると思います。
参考:ハイヤーセルフと繋がる方法とは? 問題を解決する、自分を超えた答えのダウンロード法
ジャーナリングなどで定期的に心の澱を発散し、気づきに変えていくこともサポートになるでしょう。
参考:自然なあなたが一番美しい。ドス黒い感情やダメな視点にも価値がある! 不安、怒りを「書いて」陽転させる方法
願望実現における恐怖と不安の乗り越え方。
このように、願う夢が本来の道であった場合に、ゆり戻しにかられたり、挑戦を諦めてしまったりするのは自然なことです。たとえあなたが頭(顕在意識)で「大丈夫」と思っていても、深い心(潜在意識)はステージが変わることへの恐怖や不安を感じるものだからです。
諦めた自分を無用に責め、落ち込む必要はない。
そこで願望実現における恐れや心配を乗り越えるために、まず知っておきたいことは、挑戦できなかったことを自分の弱さのせいにして無用に落ち込む必要がないということ。
そして不安になったときに、不安になってはいけない!と、否定しなくてもいいんです。しばらく沈んだままでもいいんです。私たちにはホメオスタシス機能があるので、ゆり戻しがあって、当然なんです。
今の状態にある自分を許して、
「わたしなんて無理だって思ったけど、諦めたけど、これは(あれは)シャーマニック・テストなんだ。願望を実現している人たちは、誰も最初からその状態だったわけじゃない。このお試しを超えたから、波動や影響力が強くなって達成したんだ。だから、わたしは今、やるんだ!」と決めればいいんです。
等身大の自分を認める。過小評価せず、小さな一歩を。
また決めるうえで、等身大の自分を認めることは大切です。完璧な理想の状態と今の自分を比較して、必要以上に自分のことを過小評価する必要はいりません。まず現実を受け入れます。
いきなりジャンプしようとするから怖いわけで、ホップ・ステップでいいんです。無理がないレベルで、徐々にコンフォートゾーンを大きくしていけばいいんです。
ダイエットだったら、たとえばスナック菓子一袋を同じ値段のチョコ一つに変えてゆっくり味わってみる。瞑想だったらいきなり30分じゃなくて、深呼吸10回から始めてみる。
そんなふうに最初から完璧にはいかない、不器用でも一歩を進めることに大きな意味があると、私が思えるようになったのは、アメリカでたくさんの恩人たちにそれを教わったから。
たとえば、ギフトエコノミー(贈与経済)を生きるニップン・メッタさんという方にお会いした、今から6年前のこと。
参考:ギフトエコノミーは資本主義経済とも両立できる。服部雄一郎・麻子さんに教わる、豊かなお金の使い方と自然の恵みにならう暮らしのはじめ方
ニップンさんはオバマ元大統領のアドバイザーもされた人ですが、もう何十年も自分の仕事に値段をつけず、相手から贈られたものをありがたく受け取るというスタンスで心豊かに暮らしていらっしゃいました。
「そんなふうに生活するなんて素晴らしいけど、難しいだろうなぁ」と思った当時のわたし。さらには「ちっぽけな自分はダメだなぁ」と自責の念にかられました。
するとニップンさんから渡されたのが“Big things have small beginnings(大きなことは小さな始まりから)”と書かれた小さなカード。
カードの言葉が、ニップンさんみたいにギフトベースで生きるのはかっこいいけど、今の自分にはちょっとまだハードルが高いな。でも「ギフトエコノミーについて深い知識がなくて完璧な原稿が書けなくても、トイレ掃除を贈ることができる」「英語ができなくても、料理が下手でも、お皿洗いをサービスできる」。6年前の私は、そんなふうにそっと優しく後押ししてもらえたんです。
今の自分にできるギフトを提供することから始めたらいいよと、RAS(網様体賦活系)のフィルターの目を甘くして、0か100じゃない世界観を見せてくれたんです。
現状とゴールに橋をかけるための質問。
そこで、願いや夢に向かう最中に恐れや不安にかられたとき、以下の2つの質問を自問して、自分の現状とゴールを俯瞰してみましょう。部分(現状の自分)と全体(ゴールの世界)に橋をかけるのです。完全に客観的な視点から自分の人生を俯瞰することで、なにをどう変えたいのかを明確に把握します。
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どこで自分自身を諦めてしまいましたか?
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そんなあなたが妥協したくないものはなんですか?
次のステージへ進化するときには葛藤や痛みが生じて当たり前です。体験したことがない世界にいくことになり、ホメオスタシスが働くからです。だから自分を責めて、0か100かで捉えなくていい。
同じ記憶をリピートし続けるのではなく、望む未来に橋をかけることで新しい道が見えてきます。何度も繰り返せば、やがて潜在意識は新しい方程式を身につけます。
自分の夢や願いに向かって動き出すとやってくる試練、シャーマニック・テスト。それは願望実現に向けたあなたの決意を問う、宇宙のお試しのようなものです。難しい、ムリ、大変という思い込みを変えるには、やると決断し、現状とゴールを客観視すること。また、いつだってゆり戻しにかられることを心の弱さだと自分を無用に責める必要もありません。
最後に、私の好きなヴィクトール・フランクルの話で締めくくりたいと思います。
アウシュヴィッツ収容所で家畜のように扱われ、いつなんどきナチスの手でガス室に送られるかもわからないようなユダヤ人ふたりが自殺しようとしたそうです。「生きていることにもう何にも期待が持てない」と。
それに対して、同じくユダヤ人収容者だったフランクルは「生きることはあなたたちからなにかを期待している、生きていれば、未来にあなたたちを待っているなにかがある」と伝えて自殺を踏みとどまらせました(『夜と霧 新版』より)。
私たちが人生に絶望しても、人生は私たちを待っています。
それはたとえまだ見ぬ世界でも、達成するという実感が得られなかったとしても、あなたによって体験される願望や夢はあなたに現されることを必ず待っています。